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  • 2018年11月14日 伊豆経済ジャーナル

地震波を利用した動的耐震測定について

1 . 動的耐震測定とは?

動的耐震測定システムは、地盤と建物に微弱な地震波を与え、その建物が震度いくつの地震まで安全かを具体的に表示するシステムです。
また、地盤を調査することで、地盤の特徴と、地盤と建物の相性(共振可能性)を表示することができます。
実際に建っている建物で測定を行うため、測定を行うタイミングとしては、家のリフォーム前や店舗の改修工事の前などに行う場合が多いです。

振動機を使った調査
  • 建物に小さな地震
  • 地盤に小さな地震

① 建物が震度いくつの地震まで安全かを数値で推測
建物に震度1程度の地震波を与え、そのときの建物の揺れのデータをもとに、建物が震度いくつの地震まで安全かを解析計算して報告します。

② 建物のどこが弱いかがわかる
建物の東西南北4点に地震計を設置して計測します。これにより、図面と実際の相違(雑壁がどう影響しているか、建物の老朽度がどう影響しているか)がわかり、耐震改修の必要性を、データをもとにお施主様に説得力をもって訴えることができます。

③ 耐震改修の効果がわかる
耐震改修前、耐震改修後、2回の計測を行うことで、建物が耐震改修によりどれだけ強くなったかをお施主様に具体的かつ明快に提示することができます。

④ 地盤と建物の相性(共振可能性)がわかる
地盤と建物双方の卓越周期(もっとも揺れやすい揺れの周期)を算出することで、地震時に地盤と建物がどれくらい共振しやすいかがわかります。

2 . 動的耐震測定の流れ

動的耐震測定においては、建物と地盤を計測します。調査時間は、建物の計測に約2時間、地盤の計測に約1時間、合計3時間程度が標準です。
また、計測中は起振機や加速度センサーを設置するために、各部屋へ入らせていただく場合があります。

計測対象は、戸建木造2階建て住宅です。鉄骨造、コンクリート造は、木造住宅とは解析方法が異なりますので、対象外となります。
平屋建の住宅は、振動機を梁の上に設置する必要があり、これには危険を伴いますので、対象外です。
また、2階建て住宅でも、建物重心部(ほぼ中央)に2階床面が存在しない住宅については、振動機設置位置がないため、対象外となります。

動的耐震測定を行うにあたっては、計測機器設置位置、建物重心位置、床面積等を算出する必要から、設計図書(平面図・立面図・精密耐震診断結果等)が必要です。

建物の計測

動的耐震測定を行う時には、水平起振機を建物2階の床に設置します。
建物2階の床に加速度検出器を設置することで、建物1階の挙動を把握することができます。
建物1階の挙動を調べるのは、地震時には1階が崩れ落ちて倒壊することが圧倒的に多いためです。

加速度検出器は、建物の両端、最低4点(X方向計測時は南北の2点、Y方向計測時は東西の2点)設置します。
そうして、建物が均等に揺れているか歪みをもって揺れているかが判断できます。

北側より南側の方が大きく揺れている計測データ

動的耐震測定における建物の揺れは、震度1から2に相当する2~8gal程度です。
計測時に物が落ちたりすることは通常はありません。ましてや家が壊れるといったことは起こりません。
ただ、少しの振動を与えただけで倒れてしまうおそれのある花瓶や調度品などについては、事前に安定した場所へ移動させておいてください。

参考

震度1・・・0.8~2.5gal  屋内にいる人の一部が、わずかな揺れを感じる。
震度2・・・2.5~8.0gal  屋内にいる人の多くが、揺れを感じる。眠っている人の一部が目を覚ます。

2階部の建物重心位置に起振機を設置します。
ここに設置して建物に振動を与えることで、正確なデータを取得することができます。

また、振動が減衰してしまうおそれがあるため、絨毯の上や畳の上に振動機を設置することができません。

振動機設置 じゅうたん・たたみの上 ・・・×

1階重心の真上が和室などで起振機が設置できない場合は、重心線上の設置可能な場所に起振機を設置します。

この場合は、X方向の計測が終了したらY方向の起振機設置場所へ起振機を移動させることで計測が可能です。

地盤調査

垂直型起振機で地震波を発生させ、地震波の伝わり方を分析します。一般に、軟弱地盤ほど地震時の揺れが大きくなる傾向にあります。
調査地の地盤が軟弱地盤かどうか、また、想定される地震が起きた場合にどれくらい揺れるかを算出します。

地震波は人体にはほぼ無感で、家が揺れたり近隣に振動が及んだりすることはありません。

参考 周波数とは?

周波数とは、1秒間に波が往復する回数のことで、単位はHz(ヘルツ)で表します。
動的耐震診断の場合には、起振機の振動が1秒間に何回往復するかを表します。

加速度が同じである場合には、低い周波数の方が振幅の幅(変位)が大きくなります。
したがって、家がいちばん揺れやすい周波数(卓越周波数)が低い物件ほど、地震時には大きく揺れやすい傾向があります。

木造住宅の場合、卓越周波数は、だいたい4Hz から8Hzの間にあります。
卓越周波数が4Hzの建物と、8Hzの建物とでは、前者の方が剛性が低い建物である(揺れの幅が大きくなりやすい)、ということが分かります。

では、地震は、いったい何Hzでくるのでしょうか?
これは地盤の状況によって異なります。一般には硬い地盤では卓越周波数が高く(揺れ幅が小さくなりやすい)、軟弱な地盤では卓越周波数が低い(揺れ幅が大きくなりやすい)傾向にあります。
いったい何Hzの地震がくるのか、それを調査するため、動的耐震測定においては地盤調査を行います。

3 . 動的耐震測定報告書( 診断結果グラフ)のみかた

地診断結果グラフでは、建物の耐震性能が表示されます。
この結果は、地震の大きさ(揺れの加速度)と建物1階部の変形量の関係を示すものです。
グラフの青い範囲は建物の変形が1/120rad以内(高さ3mの場合2.5cm)で、一般に建物が損傷を受ける可能性が低いといわれる範囲を、グラフの黄色い部分は建物の変形が 1/60rad 以内(高さ3mの場合5.0cm)で、一般に建物は損傷を受けるが倒壊に至る可能性は低いといわれる範囲を示しています。

X方向(長辺・東西方向)

Y方向(短辺・南北方向)

ただし、建物の耐震性は、地震の大きさと建物の変形量の関係のみで決まるのではなく、建物基礎のいたみ具合や土台の老朽度合い、接合金物が充分な強さをもったものかどうかにも依存します。微弱な地震波ではわからないこれらの点は、目で見て大丈夫かどうかを判断することになります。したがって、専門家による精密耐震診断と併用されることをおすすめいたします。

参考 「gal」について

地震の揺れの強さを示すのに一般に使用されているものとして、気象庁が発表している「震度階級」があります。
しかし、これは診断結果として表示するには大まかにすぎること、また、約400gal以上のすべての地震が震度7と表示されることから、この報告書では、地震の揺れの強さ(加速度) を示すものとして、「gal(cm/s2)」を用いています。

以下に、加速度と震度階級との関係を表にしています。
また、地震の規模を表すのに、「マグニチュード」という語が使われます。「マグニチュード」は地震そのもののエネルギーの大きさを表すもので、「加速度」や「震度階級」は調査地での揺れの大きさを表すものです。

ちなみに、兵庫県南部地震(阪神大震災)の地震の規模はマグニチュード7.2、震源から約25km離れた神戸海洋気象台では818galの揺れを記録しています。

加速度(gal) 震度階級
~0.8 0 人は揺れを感じない。
0.8~2.5 1 屋内にいる人の一部が、わずかな揺れを感じる。
2.5~8 2 屋内にいる人の多くが、揺れを感じる。眠っている人の一部が目を覚ます。
8~25 3 屋内にいる人のほとんどが揺れを感じる。恐怖感を覚える人もいる。
25~80 4 かなりの恐怖感があり、一部の人は身の安全を守ろうとする。眠っている人のほとんどが目を覚ます。
80~250 5弱 多くの人が身の安全を図ろうとする。一部の人は行動に支障を感じる。
5強 非常な恐怖感を感じる。多くの人が行動に支障を生じる。
250~400 6弱 立っていることが困難になる。
6強 立っていることができず、はわないと動くことが出来ない。
400~ 7 揺れにほんろうされ、自分の意志で行動できない。
動的耐震測定における注意事項
  • ① 動的耐震測定においては、建物と地盤を計測します。調査時間は、建物の計測に約2時間、地盤の計測に約1時間、合計3時間程度が標準です。
    また、計測中は起振機や加速度センサーを設置するために、各部屋へ入らせていただく場合があります
  • 計測対象は、戸建木造2階建て住宅です。鉄骨造、コンクリート造は、木造住宅とは解析方法が異なりますので、対象外となります。
    平屋建の住宅は、振動機を梁の上に設置する必要があり、これには危険を伴いますので、対象外です。
    また、2階建て住宅でも、建物重心部(ほぼ中央)に2階床面が存在しない住宅については、振動機設置位置がないため、対象外となります。
  • ③ 動的耐震測定を行うにあたっては、計測機器設置位置、建物重心位置、床面積等を算出する必要から、事前に平面図・立面図・案内図・施主名・住所・建築年数・精密耐震診断結果等が必要です
    また、精密耐震診断結果がない方は事前にご連絡ください
  • ④ 動的耐震測定における建物の揺れは、震度1から震度2に相当する2~8gal程度です。
    計測時に物が落ちたりすることは通常はありません。ましてや家が壊れるといったことは起こりません。
    ただ、少しの振動を与えただけで倒れてしまうおそれのある花瓶や調度品などについては、事前に安定した場所へ移動させておいてください

参考

震度1・・・0.8~2.5gal  屋内にいる人の一部が、わずかな揺れを感じる。
震度2・・・2.5~8.0gal  屋内にいる人の多くが、揺れを感じる。眠っている人の一部が目を覚ます。